君には聴こえる
だけど、あの声が耳について離れない。
温かく包み込んでくれるような優しい歌声。あの言葉が、あの歌が、私に向けられたものでないことはわかってる。単なる思い込みかもしれないけど、私に力をくれたのは確か。
以来、塾の帰りに噴水の前をチェックするようになった。今まで気にしたこともなかったのに。
また声を掛けられたら恥ずかしいから、見つからないようにと毎回場所を変えた。こっそり聴いているのに、必ず彼に見つかって声を掛けられてしまう。
歌い終えた彼は、いつも私を見て。
礼をして微笑んでくれる。
そのたびに恥ずかしくなって逃げ帰るのだけど、見つけてくれたことが嬉しかった。今度はどこで聴こうか……なんて考えながら、彼の歌を聴くことが楽しみになっていく。
彼に会える。
彼の歌が聴ける。
そんな思いが、私の背中を押していた。