君には聴こえる
もう一度、あの歌声を聴きたい。
もう一度、彼に会いたい。
月日が経っても、思いは募るばかり。
だけど、彼の手掛かりは何にもない。知っているのは、彼の名前と大学だけ。直接話したこともないのだから。
私は思い上がっていたのだろうか。
私は彼の歌を聴く観衆のひとり。
彼が私を見てくれていると思っていたのは、ただの勘違いだったのかもしれない。
彼は私のことなんて、全く覚えてなんかいない。最初から、顔さえ覚えていなかったんだから。
もし会えたとしても、気づいてくれるはずなんてない。
何度も自分に言い聞かせるのに……
一度抱いてしまった気持ちは抑えられないほど、膨れ上がっていた。
覚えてなくてもいい。
一度だけ彼の姿を見ることができたら、それだけでいいから。