君には聴こえる
再会した日、彼は話してくれた。
大学を卒業して、四月から社会人として働き始めたこと。職場はこの駅の近くだという。
大学の構内で見つけられなくて当たり前だ。もう彼は大学にはいなかったのだから。
そして就職してからは歌うことは出来なくなったけど、ずっと気になって駅を通るたびに探してくれていたのだと。
嬉しかった。
私のことを覚えていてくれた。
しかも観衆のひとりではなく、特別な存在だったと打ち明けてくれたのだから。
帰り際、駅近くの公園で彼はアカペラで歌ってくれた。
胸が熱くなった。
寒さも忘れるほど。
彼が、私の手を握ってくれる。
互いの手は冷たいけれど、握り締めているうちにじんわりと温もりが増していく。
初めて、彼からもらったクリスマスプレゼント。