君には聴こえる
♪ 君だけに
冷たい風を掻き分ける歌声が、遠ざかっていく。代わりに懐かしい記憶の中を流れる歌声が、存在感を増していく。
もっと聴きたいと思う歌声は、記憶の中。耳を傾けていると、彼が絡み合わせた指に力を込めた。
「どうしたの?」
と言って振り向いた彼は、あの日と変わらない笑顔。初めて見た日と同じ優しくて穏やかで、寒さなんて忘れさせてくれそうな。
「クリスマスだなあ……って」
「そうだね、クリスマスだね」
私の意味不明な答えにも、彼はくすっと笑って目を細める。
きっと、察してくれたんだろう。
初めて彼に会ったのも、再会したのもクリスマス。私たちにとって、今日が特別な日であることを。
そして、これからも特別な日であり続けると。