君には聴こえる
ふいに駆け抜けた冷たい風に、驚いて体が強張る。慌ててストールに頬を埋めて、開け放たれた大きなガラスの扉の向こうを振り返った。
コンコースの外は既に暗闇に染まり、街灯の光が景色を浮かび上がらせている。
繁華街へと向かう幅の広い歩道。それを挟んで左右に別れたロータリー。
歩道に植えられた木々の電飾が、クリスマスらしさわ醸し出す。その真ん中にある小さな噴水に向かって立つ、疎らな人たちの背中が見える。
吸い寄せられるように、足が動いた。同時に、ピアノの音が耳に飛び込む。
コンコースの扉を出た私の目に、噴水の前にふわふわしたパーマ頭の若い男性が映った。
私よりもずいぶん若そうな男性は、二十代前半ぐらい。キーボードを弾きながら、気持ち良さそうに歌い出す。
ポップでノリのいい曲に合わせて、彼を囲んでいる人たちが肩を揺らし始める。