夏色の約束。~きみと生きた日々~


なつも隣に並んで、ゆっくりとそのきれいな景色を眺める。


「ぼくね……」


隣にいてずっと海を眺めていたあおちゃんが、消え入りそうなくらい小さな声で呟いた。


「ん?なぁに?」

「ぼくね、びょうきなんだ……」

「………え?」


思いもしなかった突然のカミングアウトに、なつの頭が徐々に真っ白になっていく。


………病気、って。


「“心臓病”っていう、しんぞうがうまくうごかないびょうきなんだって」


………しんぞうびょう?


なにそれ。


まだ4歳だったなつは、そんな病気を知らない。


だから、その病気がどんなものなのか、全く分からなかった。


そんななつに、あおちゃんはひとつひとつ教えてくれた。


病気だから、あおちゃんは、お母さんの勧めで空気のきれいなこの島に引っ越してきたこと。


“発作”が起こると、突然息が苦しくなって涙がでてくること。


……今までたくさん、入院したこと。


手術をしたこと。


「ぼく、すごいびょうきでしょ」


そう言うあおちゃんの瞳が、少しだけ悲しげに揺れた。


「……っ、でも、なおるんでしょ?あおちゃんのびょうき、なおるんでしょ……?」


なんだか怖くなったなつは、あおちゃんに問いかける。


< 20 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop