夏色の約束。~きみと生きた日々~
「碧くんのお父さん、お母さん。ちょっと病状を伝えたいので、隣の部屋にきていただけますか?」
お医者さんはきっと、なつやあおちゃんに聞こえないように小さな声で言ったつもりなんだろう。
それでも、この静かな病室の中にはお医者さんの声がよく響いた。
だから、会話の内容はなつにも聞こえていた。
嫌な予感が、だんだんと確信に変わっていく。
あおちゃんのお父さんとお母さんに目を向けると、ふたりは一瞬困惑した表情を見せたけど、すぐに顔を見合わせて頷いた。
でも、その時。
「俺……海に行きたいな」
この緊張感の漂う真剣な場面に似合わないような明るい声で、あおちゃんが言った。
「え……?」
その場にいた誰もが、意味が分からないとでも言いたげに首を傾げた。
「なっちゃんと、海に行きたい」
念を押すように、もう一度だけそう言ったあおちゃん。