夏色の約束。~きみと生きた日々~
あおちゃんがいなくなることを想像しただけで、なつはいてもたってもいられなくなった。
『こら、菜摘! 縁起でもないこと言わないの! 碧くんはそんなに弱い子じゃないでしょ!』
『……っ、でも』
『でもじゃない! 菜摘、あなたが一番知ってるでしょ……? 碧くんがどれだけ強い子か……』
『……っ、ん』
『碧くんは死なない。死んだりなんかしない。菜摘と一緒に、生きるの……!』
『なつと、一緒に……』
目の前で涙を流しながら、なつを真っ赤な顔で怒るお母さん。
その時、小さな頃に交わしたあの約束がなつの脳裏をかすめる。
“もしぼくがびょうきをなおしたら、ずっといっしょにいてくれる?”
“……うん、いる。あおちゃんと、いるよ”
あの時、あおちゃんは言った。
病気に勝って、生きるって。
……それを思い出したなつは、自分の涙を右腕でグッと拭う。
一階からなつの部屋まで上がってきて姿を現したお父さんが、そんななつの頭をくしゃくしゃっと不器用に撫でた。
『……菜摘。お前はもう、学校へ行きなさい。学校から帰ったら、すぐに碧くんのお見舞いへ行こう。父さんも今日は、仕事を早めに切り上げるから』
『……ん』
『だから菜摘は、学校を頑張ってきなさい』
まだ静かに涙を流しているお母さんと、必死に涙を堪えているなつを交互に見て、お父さんはそっと微笑んだ。
その笑顔はまるで、“安心しなさい”って言われているようで。
そんなお父さんの微笑みを背に、なつはランドセルを背負う。
『行ってきます……』
そっと呟くように言ったその言葉は、今までで一番苦しい“行ってきます”だった。