夏色の約束。~きみと生きた日々~
だからなつも、少し声のボリュームを落として返事をする。
「……はい、分かりました。あおちゃんか、あおちゃんのお母さんに渡しますね」
「ありがとう、菜摘ちゃん」
「いいえ。なつにできることは、このくらいしかないんで……」
「菜摘ちゃんは、本当に碧くんの支えになってると思う。……先生も、碧くんが早くよくなってくれることを心から願ってるわ…」
先生は、あおちゃんの顔を思い出したのだろう。
悲しげに目を伏せて、手をぎゅっと握って、先生はなつにそう言った。
なつはそんな先生を見て、そっと微笑む。
「なつも、同じ気持ちです。あおちゃんがよくなることを、信じてます」
そしてそう言い切ると、先生の顔を見ることもせず、なつはその場を全力で駆け出した。
きっと、この学校にいる人たちであおちゃんの病気を知ってるのは、なつと先生たち、それから1年生にいる、あおちゃんの妹の結衣ちゃんだけ。
一分、一秒でも早く、あおちゃんに会いたい。
会って、あおちゃんの笑顔が見たい。
その想いだけで、長い長い島の道をなつは全速力で駆け抜けた。