バラとチョコレート(X'mas 仕立て)


「あ」


再会は突然やって来た。


雑誌の特集で見た民家の間にひっそりと建つパン屋。


サクサクのチョコクロワッサンが一押しだと記事には書いてあった。


当時、休日の度においしいパン屋を探す旅に出ていた私は、平日の昼間、この時間に偶然、同じ店に居合わせた彼に驚いた。


確か、この間の・・・と声を掛けると、向こうも私を覚えてくれていたらしく、どうもと頭を下げた。


ここでこうしてあったのも何かの縁だと思った私は、お店のカフェスペースでお茶をしない?と彼を誘ってみた。

 

人見知りの彼は私と話すのに緊張していたみたいだったけれど、実は自分は大学を中退して、今は料理の専門学校に通っていること、合コンは数合わせのためにどうしてもと頼まれ、断れなかったことなどをぽつりぽつりと話してくれた。


私もそうだったと一気に親近感が湧いた。

 
焼きたてのクロワッサンを頬張っていると、ふいに目の前に座る彼が微笑んだ。


「何?何かついてる?」と訊ねると、「いや、おいしそうに食べるなと思って」と返された。


食いしんぼうみたいに思われた?急に恥ずかしくなる。


「ゴメン、おいしいものを食べるとつい・・・」


「いや、いいですね。おいしいものを食べると幸せになりますよね。俺もそうです」


にっこりと微笑むその表情に、とくんと私の鼓動は高鳴った。


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