バラとチョコレート(X'mas 仕立て)
日中はお菓子作りに追われ、今朝出会って、午前中店に現れたであろう少年のことはすっかり忘れていた。
やっとお昼休憩に入れたと思ったら、時刻はすでに午後4時を回っていた。
クリスマスまでの日中は時間が経つのがあっという間なのに、一息ついてからの終わるまでの時間が長い。
気分転換に裏口から外に出た。
カフェオレを飲みながら、冷たい空気を吸うと、工房で動き回って火照った体をすっと冷やしてくれた。
「やぁ、カヲっぽ!」
気付くと、駐車場の前、店先へと続く花壇の縁に今朝の少年が座っていた。
「カヲっぽ?」
「お姉さんのあだ名だよ」
少年はにっこり笑いながらはいっとまた赤いバラを差し出した。
「ありがとう」と受け取る。
今度のカードは「happiness=幸福」だ。
「ねぇ、君は誰?何でバラを私にくれるの?この単語の意味って・・・」
「秘密だよ!」
言い終わる前に、少年は人差し指で口元を押えて、ウィンクを投げかけた。
ぽんと勢い良く縁から飛び降りると、「またね~」と大きく手を振り、住宅街に消えて行った。