大事なものは、いつでもそばに
「それにね、私と話してる時の恭介くんって、いつもちなみのことばっかり話してるし…。ねえ!」

愛佳はパッと何かに閃いたように目を大きくさせながら私の腕を取り、自分の腕を絡ませた。

「私、二人を取り持ってあげるよ!」

目を輝かせ、愛佳はそう提案する。私はさり気なく彼女の腕をほどき、小さく笑った。

「あいつ、私と話す時は、愛佳のことばかり言ってるよ」

私は再び前を向いて歩き出した。それに少し遅れて愛佳も歩き出す。

「私のこと?」

にわかに信じられなさそうに首をかしげながら、彼女は聞き返してきた。私は深く頷いた。

「『愛佳ちゃんは、何が好きなんだろ〜』とか、『好きな人はいるのかな?』とか。私が話題になるのは、繋ぎだよ、繋ぎ。照れちゃって、何を話していいかわからないんじゃない?」

ニヤッと笑いながらそう口にすると、私は携帯をスクバのポケットから取り出し、時間を確認した。

「あ、愛佳、ごめん。予備校に遅れそうだから、先に行くね!」

夕陽を背にして、びっくりした顔を浮かべた彼女のシルエットを残して、私は足早にその場から立ち去って行った。

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