ティラミス
桜が咲き、向日葵が輝き、木々が赤く燃え上がり、そうして。
滝沢樹が図書館を去った日からもう一年の歳月が経っていた。
私は無事図書館司書の資格をとり、今も元気に働いている。
街中には、今日も白い雪がチラチラと降る。
流れるクリスマスソング。
白い息。
かじかむ指先。
去年と同じはずなのに、どうしてこうも緊張するのか。
足を動かすのさえぎこちなく感じる。
不意に流れていたクリスマスソングが途切れ、上を向く。
『世界のフルート奏者滝沢樹のクリスマスコンサート』
そんなのぼりが目に付く。
ゆっくりと息を吐き、ポケットに手を入れる。
チケットはちゃんと入っていた。
それと、彼から貰った最後のメモも。
何を言おうか。
言うべき言葉を見つけられないまま、私はコンサートホールへ足を踏み出した。