ティラミス



六年前。


笑いながらフルートを吹いている男の子を公園で見つけた。

何がおかしいのか、分からないけれどその少年はヘラヘラ目元を緩ませて笑っていた。


公園には人がいなかったので、彼の演奏を聞いていたのは私だけ。

音楽に詳しくない私にも分かるくらい、彼の演奏は並大抵のものではなかった。
見た目など気にせず、ただ、フルートの持つ音を全面に生かす。
まるで踊っているような。
フルートと彼が全く別のものなんかじゃなくて、一つの共同体のような。


どうしてあんな音が出るのか。
ボーッと彼の演奏を聞いていて、不意にその訳に気づいた。

彼は観客に聴かせるためにフルートを吹いているわけではないから、あんな音が出せるのだ。
上手く見せようとしない。
周囲の目に惑わされない。

ただ、ありのままの自分とフルートの音を心の赴くまま奏でているだけだ。

だからこそ、ここまで心に響く音が出る。
音楽の本質というものを、飾らずにさらけ出す音。


努力だけでは辿り着けない、才能というものを私は初めて肌で感じた。



< 16 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop