ティラミス
六年前。
笑いながらフルートを吹いている男の子を公園で見つけた。
何がおかしいのか、分からないけれどその少年はヘラヘラ目元を緩ませて笑っていた。
公園には人がいなかったので、彼の演奏を聞いていたのは私だけ。
音楽に詳しくない私にも分かるくらい、彼の演奏は並大抵のものではなかった。
見た目など気にせず、ただ、フルートの持つ音を全面に生かす。
まるで踊っているような。
フルートと彼が全く別のものなんかじゃなくて、一つの共同体のような。
どうしてあんな音が出るのか。
ボーッと彼の演奏を聞いていて、不意にその訳に気づいた。
彼は観客に聴かせるためにフルートを吹いているわけではないから、あんな音が出せるのだ。
上手く見せようとしない。
周囲の目に惑わされない。
ただ、ありのままの自分とフルートの音を心の赴くまま奏でているだけだ。
だからこそ、ここまで心に響く音が出る。
音楽の本質というものを、飾らずにさらけ出す音。
努力だけでは辿り着けない、才能というものを私は初めて肌で感じた。