ティラミス
フルートを吹いていた少年はしゃがみこんでベソをかいていた。
私は彼に近づき、フルートを手渡す。
見上げてくるその目は、どこまでも純粋だった。
「君、すごいよ、本当に。神様に愛されてる。」
そう声をかければ、彼は涙に濡れた目で分からないようなポーッとした顔をした。
「かみさま?」
「うん。音楽の神様とか、そんな感じの。」
「しらない、みたことないから。」
「私も。」
それから、彼をベンチに座らせて落ち着かせた。
私は私で素敵なフルートの演奏を聴けて満足していた。
あのとき、彼にフルートの演奏のご褒美としてご馳走してあげたものがあった。
コンビニの、360円の、ティラミス。
安っぽい味のそれを、彼は美味しそうに食べていた。