幽とぴあらいふ
「お?おはようさん、光希。馬鹿て言うたらアカン。アホて言わなアカンのやで?ってか、俺アホちゃうわっ」

「あ、兄貴」


悠希に後ろから抱きついたままで一人ツッコミをする伊月を無視して、爽やかな笑顔を光希に向ける。


「兄貴、馬鹿はうつらないよ」

「イタッ。ユウちゃんの笑顔が刺さるわぁ」


濃紺の学ランによく似合う黒縁眼鏡の奥で、切れ長の目をすうっと細めた。


「人の話を聞け。悠希から離れろ」

「ヘッヘーン。イヤやわ、アホー。羨ましいクセにー」


光希は、伊月に絶対零度のような冷たい眼差しを向け、襟首を猫のように持って悠希から剥がして投げ捨てた。


「イッタいなぁーっ。ユウちゃんは減らへんやろ、ケチ」

「減る。触るな馬鹿。関西弁がうつる」

「減らへんし、うつらへんわっ。ちゅうか関西弁ちゃうし、京都弁やしっ」


光希と伊月とは通う学校が違うはずなのに悠希の登校風景は、ほぼ毎日が騒がしいもので、つくづく同じ学校にしなくて良かったと思いつつ、みっともない言い合いに仲裁を入れようと試みる。


「はぁ、そろそろ行こ…あ」


「大体なぁ、光希は過保護すぎんねん。束縛彼氏かっ」

「彼氏じゃない、兄だ。」

「ぎゃーっ、過保護と束縛は否定せんのかーっ。そんなんユウちゃんが友達作れんで孤独になるわっ」

「お前は悠希の友達じゃない。」

「友達やっ、ちゅうか親友と書いてマブダチやし」

「断じて認めん。悠希っ」

「マブダチやし。ユウちゃん」
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