雪降る月夜に
「アラン様のところに行くの」


入口の警備兵さんに伝えると、「どうぞ」と、意外にもあっさり了承してくれた。

シリウスさんがいるからかしら・・・

それとも、贈り物の効果かも?


政務塔への渡り廊下を歩くと、寒さに身体が震えた。


「やっぱり、外は寒いわね」


墨色の空間に塔から洩れる灯りが届き、雪がチラチラと舞うのが見える。

リンク王さまとシェラザード様も空の上で寒さに震えてるのかしら。


ここを通るのは、随分久しぶりだわ。

まだアラン様の気持ちが分からない頃、夜にこっそり抜け出したっけ。

あの時は、料理長さんと一緒でまだ暖かい頃だった。

あの日はコック服を着てて、今は手作りのサンタ服を着てる。

なんだかとても不思議な感じがするわ。




業務を終了した政務塔はひっそりと静まっていて、階段の部分なんて、まるで夜の学校のよう。

執務室に向かうべく階段を登ろうとしたら、上からカツカツカツとリズミカルな足音が聞こえてきた。

このきびきびした足音の主は――――


「ウォルターさん」

「――――っ、エミリー様、どうしてこちらに。シリウス、これは一体どういうことですか。私は何も聞いておりません」


凛とした口調でシリウスさんを問うウォルターさんの鋭い視線の前に、阻むようにして立った。



「あの、あなたに用事があって来たの、ウォルターさん」

「―――私に、ですか?何でしょう。用事ならば塔でも伺いますが」

「えっと・・・いつもアラン様を支えて下さってありがとう。これからもよろしくおねがいします。メリークリスマス!」

「っ・・・・。これは、一体・・・」

「クッキーよ。わたしが作ったの」



可愛い包みを差し出すと、鋭かった瞳を丸くして手の中の包みを見つめたウォルターさんの唇が僅かに動く。


・・エミリー様が・・・これは、私が戴いてもいいのでしょうか・・・アラン様が・・・と、ぶつぶつ呟くのが聞こえてくる。



「今日のわたしは、サンタさんなの。どうぞ受け取って下さい。形は少しおかしいけれど、味はおいしいはずよ。・・・甘いものは嫌いですか?」

「いいえ、好きです。あ―――・・・ありがとうございます。いただきます」

「パトリックさんは、まだいますか?」

「パトリック様は、今夜はもう帰宅されました」

「そう――――」



残念だわ。あの方にも、渡したかったのに・・・。

優しいお兄様のようなパトリックさん。明日は、渡せるかしら・・・。



「アラン様のところに行くわ」
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