雪降る月夜に
アラン様の力強い腕が背中にまわされて、スススと引き寄せられていく。


「え・・・?あの・・・」


サンタ帽子が取られて、ふわりと下りた髪を武骨な指先がゆっくりと梳き始める。


「エミリー・・・」


耳元に届けられるアラン様の声に、色が含まれ始める。

ぼんやりしてると、このままどんどんアラン様のペースにはまってしまうわ。

気付けば朝。なんてことになってしまいかねない。

見上げると、優しい光を湛えたブルーの瞳がだんだんに近付いてきていた。


「あ・・待って。・・・だめです」


近付く唇を指先で止めて、厚い胸板を懸命に押して、なんとか二人の間に隙間を開けた。

アラン様の両腕が彷徨うように空で泳ぐ。今のうちだわ。



「アラン様、これを――――届けに来たんです」


わたわたと籠の中から大きな包みを取り出して差し出す。

と。少しだけ眉を上げた後に口元を緩めて、素直に受け取ってくれた。


「メリークリスマス、アラン様。これ、手作りなんです・・・」



アラン様の包みの中は特別仕様で、クッキーじゃないものが入っている。

喫茶「空のアトリエ」のサリーさんに教わったお墨付きの物だもの、美味しいって言ってくれると嬉しい。



「・・・メリークリスマス。君の手作りか――――私は、幸せ者だな・・・」


微笑みながら贈り物を眺めた後、窓の外を見やって暫く無言でいたアラン様は・・・少々待っておれ・・と言って机の上に包みをそっと置くと、上着を羽織って戻ってきた。


「そのままでは、寒いな・・・すまぬ、大きいが許せ」


大きなマントをすっぽりと被せられ、これも被っていた方が良いと、サンタ帽子も返って来た。

マントはアラン様のものでとても温かいけれど、引きずるようにぶかぶかでとても歩きづらそう。

・・・これを着て、どうするの?


「外に、参る」

「え?待って、アラン様。大きくて、足に裾が絡んでしまって―――――きゃぁっ」


裾を摘まんでわたわたしていると、突然の浮遊感が体を襲った。


「この雪の中、誰が、君を歩かせると申した・・・開けよ」



例の如くに自動ドアのように開く扉を抜けて、あっという間に政務塔の玄関まで辿り着く。

暗闇の中を雪がふわふわと舞うのが見える。


「どこに、行くのですか?」

「近くだ。エミリー、寒くないか?」

「・・・大丈夫です・・・」



アラン様に顔を埋める。

とてもあたたかくて、とても、幸せだもの。

ちっとも寒くないわ――――


サクサクと雪を踏む音だけが夜の闇に吸い込まれていく。

どこに、向かっているのかしら・・・・。


弦の絡まったアーチ形の門。

左右にある背の低い木が道を形作ってる。


ここは―――
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