雪降る月夜に
「薔薇園ですか?」

「そうだ。見せたいものがある。明日にしようと思っていたが・・・間もなく月が顔を出すゆえ―――」


下ろされた場所は、薔薇園の奥の方にある水屋。

身体に着いた雪を払って、アラン様はわたしをベンチに座らせた。


「―――あちらを、見よ」

「あちら、ですか―――?」


武骨な指が指し示す方を見ていると、雲間から覗き始めた月が、ゆっくりと辺りを照らしだした。

白い真綿のような雪がところどころ黄金色に輝く。

チラチラと舞う雪が月明かりに染まり、まるで金の花弁が舞い落ちてるかのよう。


月夜に降る、雪。

なんて幻想的で綺麗なのかしら―――アラン様は、これを見せたかったのね・・・。


ホワホワとあたたかな気持で、アラン様に寄りそって景色を眺める。

やがて月明かりにゆっくりと浮かび上がってきたそれを見て、思わず息を飲んで両手で口を覆った。



―――これは・・・アラン様――――こんなところに、この木があったなんて・・・。


すーっと伸びる枝が、大きくて綺麗な三角錐を形作る。

月明かりを受けて天辺にキラキラと輝くのは、金の星。

ベルやリボンで彩りよく飾られたそれは、雪で隠れてるところもあるけれど、わたしが作った小さなツリーにそっくりで―――


「素敵・・・・」

「君が“クリスマス”の話をした翌日に、リックと庭師のモルトを呼び作らせたものだ。私から君への、贈り物だ。気に入ったか?」

「はい。とても――――」

「もっと早くに見せたかったが、この木を探し出すのと飾りを作るのに割合に手間取っていた。今日、出来あがったばかりだ。君のツリーは、現在母君のところにある。すぐに返す約束だったが、噂を聞いた母君が見たいと申したゆえ・・すまぬな・・・」


「・・いいんです。わたしにはこれがあるもの・・・とても嬉しいわ、アラン様」



逞しい胸に顔を埋める。

嬉しくて、幸せで、そんなつもりはないのに、涙が滲みでてくる。


嬉しい時も、涙が出るのね



「贈り物、ここで渡せばもっと素敵な時間になったわ・・・」


執務室の中でもそれはそれで良かったけれど、ここの方がよりいっそう良い想い出になったわね。

そう言って見上げれば、溜まっていた涙を指先で拭いてくれた。

きらきらと優しく光るブルーの瞳が近付いてくる。


「・・・贈り物は、別のを貰うから良い・・」

「・・アラン様・・・」


顎に指がかかるのでそっと瞳を閉じると、アラン様のあたたかい唇が優しく重ねられた。

深まった口づけに頭がしびれてぽやぽやとした視界に、リンク王さまとシェラザード様の月が照らすツリーと、ふわふわと舞い落ちる雪が映る。


わたし、この日のこと一生忘れないわ――――


「アラン様・・・愛してます」

「私もだ――――」




二つの月が見守る中、交わす愛の言葉。

水屋の床に重なって映る二つの影は、夜が深まっても離れることはなかった。




クリスマス短編『雪降る月夜のクリスマス』

―――完―――
< 13 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop