雪降る月夜に
「っと、ここに、こうして―――出来たわ。これで、どうかしら」


赤いリボンの端をぱちんと切って、裁縫箱の中にハサミを置く。

くるんとまわして全体のバランスを見れば、だんだんに心がうきうきと弾み出し、自然にクリスマスソングを口ずさみ始める。

手作りの星形は少し歪だけれど、全体で見ればとても素敵に出来た。



「―――アラン様はこれを見たら、なんて言ってくれるかしら―――?」


木を飾り付けるなんて、この世界には習慣のないことだもの、きっと驚くわ。

いつも無表情なアラン様。

どんなお顔をしてくれるのか、想像するととても楽しくなってくる。


・・・早く見せたいわ・・・。


こんな楽しい気分をくれたリックさんに、ありがとうって伝えたい。

本当なら、こんな風に出来なかったのだもの―――――・・・



「クリスマスツリーも出来たし、あとは―――・・・」



リースやオーナメント、あれこれとクリスマスを彩る飾りものが思い浮かび、聖歌やミサ、いろんなイベントが思い出される。

けれど、この国でわたしが出来ることは――――



―――コンコン

『エミリー様、シリウスです。ランチの支度が出来たそうで御座います』



―――え・・?もう、そんな時間なの?

・・・とりあえず、これは隠しておかないと・・・。



わたわたと裁縫箱を仕舞い、何か適当な布をと思いながら部屋をキョロキョロ見回してもどこにもない。


―――まさか、シーツを使うわけにはいかないし・・・えっと・・えっと、そうだわ。

これなら―――


羽織っていたショールをとってツリーに掛けてみた。

ふんわりとしたフリンジの部分がテーブルまで届いて上手く隠してくれる。



『エミリー様?・・・エミリー様、どうかされましたか――?』



バタバタと歩きまわるだけでお返事をしないせいか、呼び掛けてくるシリウスさんの声が真剣さを孕んでくる。


大変―――――


「いえ、なんでも・・・ごめんなさい、なんでもないの。今、行きます」



食堂におりると、今日は料理長さんが給仕をしてくれた。


「エミリー様、うかがいましたよぉ。シャクジの森に行かれたそうですね?」


「えぇ、とても可愛い木をもらったの。大切に育てなくちゃ」


「木を、ですか?こりゃまたエミリー様、随分変わってますねぇ」


「そうかしら?―――そうだわ・・料理長さん?」



にこにことお話しする料理長さんのまぁるいお顔をじっと見つめる。

素敵なことを思い付いた。



「内緒のお願いがあるんですけど、いいですか?」


「―――はい?」


小声でお願いを伝えたら、料理長さんのつぶらな瞳がまぁるく見開かれた。
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