雪降る月夜に
「これで、いいかしら―――」


鏡に映る姿を眺めて何度も帽子の角度をチェックする。

赤い布地に、ふわふわとした白い毛皮がぐるりと縁どりをする可愛いデザイン。

リリアさんの教授でサンタ風に作ったドレスと三角帽子を身に着ける。

今日は、待ちに待ったクリスマスイブ。

外はしんしんと雪が降っていて、絶好のホワイトクリスマスになった。

日をかけて準備して、練ってきた計画を実行する大切な日がきた。

今は、夕食を終えてすぐの時間帯で、アラン様はいつも通りに残りのお仕事を片付けに執務室に戻って、メイはお部屋に戻っている頃だ。


“今日は用事があるから”と伝えて、いつものお茶会はなしにしてもらっている。

用意しておいた布を被せた籐籠を腕に提げて、準備万端整えるとドキドキしてきた。



ちょっぴり、緊張してきたわ。

皆、喜んでくれるかしら―――


そぉっと扉を開けてまわりを見て、ゆっくりと外に出る。

今のところ、近くには誰もいない。

シリウスさんが警備室で書き物をしてるのが見える。



・・・ゆっくりこっそり、そぉっと・・・。



他の警備兵さんに見つからないようにしなくてはいけないわ。

まずは、この方からしないと―――



「エミリー様、どちらに行かれるのですか」



どきん、と心臓が跳ね上がって籠の中がガサガサッと音を立てた。



―――見つかってしまった―――


「ぇえっと・・・あの・・・」


サンタ姿と腕に提げた籠を見て、それは何ですか?と怪訝そうな表情になるシリウスさんに、中の一つを取り出して差し出した。


小さな赤い袋に緑色のリボン。

中身は、キッチンを使わせてもらって作ったクッキーが入っている。


きっと、主旨はわかってもらえないけれど――


「――メリークリスマス!シリウスさん、いつもありがとう。あなたにはとても感謝してるわ。これ、わたしが作ったの」

「っ、何を・・私など――――その様な・・・エミリー様いけません」


いけません、と何度も言いながらしきりに首を横に振って、どんどん後退りをしていくシリウスさんを懸命に追いかける。



「待って。おねがい、受け取ってほしいの」


逃げ回る大きな手をやっとの思いで捕まえて、なんとか包みを握らせた。



「このような・・・よろしいのですか――有難う御座います」


「えぇ。これ全部、みんなに届けたいの。協力してくれますか?」
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