蜜恋ア・ラ・モード
「いい家じゃないか」
洸太の一言に嬉しくなる。
「中はもっと素敵なんだよ。早く教室を開きたい」
私の言葉に、洸太が優しく微笑んだ。子供の頃から変わらない、どれだけ泣いていても私が近づくと見せる、洸太の最高の笑顔。
「もうすぐその夢が叶うんだ。微力ながらも、俺も力になるからさ。頑張れ」
そう言って私の頭に手を乗せる仕草に、トクンと小さく心臓が跳ねる。
どうしちゃったのよ、私……。
今日はなんだかおかしい。自分が自分じゃないみたいだ。
顔に熱を感じる。たぶん赤くなっているだろう顔を見られまいと俯くと、同時に車が駐車場に停まった。
作業員が運んでいる荷物は、ほとんどがダンボール箱。あとは、子供の頃から使っていたお気に入りの木製の勉強机と本棚。これは日曜大工が趣味の父親の手作りで、結婚するときも持っていくつもりでいた。何度もメンテナンスしてもらっているから使い心地も抜群で、一生ものの代物だ。
それを運び出そうとしているのが見えて、慌てて車から降りた。
この家のLDKは、私にとっては仕事場。生活スペースではない。だからリフォームをしてもらうとき、キッチン横に勉強机と本棚を設置するスペースを作ってもらっていた。
そこにふたつを置いてみると、やっぱりこの家の昭和な雰囲気によく合っている。
私の思ったとおり───
自分の勘が間違っていなかったことに、安堵の溜息をつく。
「都子、このダンボール箱はどこに運べばいい?」
洸太の声に振り向くと、大きなダンボール箱を三つも抱えていた。
いくら力仕事は任せろと言ったって、三つも一緒に運ぶことないのに……。
慌てて洸太に近寄ると、一番上の箱を取ろうとして手を伸ばす。
すると洸太はパッと身を翻し、おどけた顔を見せた。