蜜恋ア・ラ・モード
薫さんとふたり、ゆったりとした時間を過ごす日曜日の朝。
いつもなら個人レッスンが入っていたりするのだけれど、今日はそれもなし。
何も気にすることなく過ごせる日曜日が、薫さんと一緒だなんて……。
コーヒーカップ片手に持ち料理雑誌に目を落とす、薫さんの横顔に頬が緩んでしまう。
「幸せだなぁ……」
なんて往年の大スターの、セリフみたいなことを呟いたりして。
「うん?」
私の小さな呟きが聞こえたのか、薫さんが雑誌から顔を上げた。
なんでもないと首を横に振ると、「そう?」と手にしていたコーヒーを飲み干した。
やっぱり幸せだなぁ。
恋人同士の何の変哲もない、ごくありふれた時間。
だけど何年も恋をしてこなかった私にとっては、とても特別な時間。
今日は何をして過ごそうか?
薫さんを見つめながらそんなことを考えていたら、突然のチャイムが玄関に誰かが来たことを知らせた。
時計を見れば、九時を回ったばかり。
「こんな時間に誰だろう?」
「僕が出ようか?」
「ううん、大丈夫」
立ち上がろうとした薫さんを手で制すと、笑顔を見せてから玄関へと向かった。
と、いつもの癖で誰かの確認もせず、ドアを開けてしまう。
「確認もしないで開けるなって、お前は何度言ったらわかるんだよ」
「洸太……」
洸太の顔を見るなり、一瞬で昨日の朝を思い出してしまい言葉を失う。
どんな顔をしたらいいのかわからなくて、黙ったまま俯いた。