蜜恋ア・ラ・モード
それにここには、今日も薫さんがいる。洸太はきっとまた、嫌な顔をするに違いない。
そうさせているのは、私なんだけど……。
「昨日は悪かった。別にお前が誰といようと、俺が怒るのはお門違いだった」
洸太はそう言うと私の頭にポンッと手を置き、部屋に入っていこうとした。
「あっ洸太。えっと、あの……」
「わかってる。アイツがいるんだろ? それ見ればわかるって」
洸太が指差す方を見れば、玄関のポーチのふちに薫さんの靴があった。
そうだよね。今更洸太に隠し事をしたって意味が無い。
洸太にはちゃんと、自分の気持ちを伝えるべき。まさに今、その絶好のチャンスじゃない?
心の中に気持ちが定まってくると、ゆっくり顔を上げ洸太の目を見据える。
「洸太、入って。話があるの」
「おう。俺もお前……と、アイツに話があってきたんだ」
そう言う洸太の顔は、笑っているのにどことなく寂しそうで。
少しだけ胸が痛む。
ずっとそばで、私のことを見続けてきた洸太のこと。私と薫さんの関係が動き出すことを、昨日の時点で気づいたんだろう。
そして私と薫さんに話があるということは……。
何となく洸太が何を言うのかわかったような気がする。洸太もまた、心に何かを決めてきたに違いない。
私の前を歩く洸太の背中が、いつになく大きく見えた。