蜜恋ア・ラ・モード


「洸太くん……」


リビングに入ってきた洸太を見て、薫さんが一瞬驚いた顔を見せた。でもその顔をすぐに戻し立ち上がると、洸太をじっと見つめた。


「おはようございます。朝からすみません。ちょっと話があって来ました」

「僕も君に話がある」


初対面の時は洸太が喧嘩をふっかけ不穏な雰囲気が漂ったふたりも、今日は意外と落ち着いている。

それでも心配になった私は、ふたりの目に入る位置まで進み声を掛けた。


「洸太、座って。コーヒーでいい?」

「いや、いらない。都子もそこに座れ」


洸太にそう促された場所は、薫さんの隣。

何も言わず黙ったまま頷くと薫さんの横に行き、一緒に腰を下ろた。

何となく居心地の悪い空気に包まれた中、しばらく静寂の時間が流れる。

このままでは埒が明かない。ここは私の家だし、私から何か発しなければと口を開きかけて、その静寂を洸太が破った。


「有沢さん。昨日は失礼な態度をとってしまい、すみませんでした」


膝に手を置き頭を下げる洸太は、今までに見たことのない洸太で正直驚いた。

そしてその態度で洸太が真剣に何かを話そうとしていることに気付き、姿勢を正す。


「いや、僕の方こそ大人げない態度をしてしまい申し訳なかった。だから洸太くん、頭を上げてくれないか?」


薫さんの言葉に洸太が顔を上げると、視線が絡む。その瞳が何かを語っているようで、洸太から目が離せない。

でもそれも一瞬のこと。

洸太はゆっくり目を伏せると、再びその目を開けた時は薫さんの顔をしっかりと見据えた。
< 102 / 166 >

この作品をシェア

pagetop