蜜恋ア・ラ・モード
安心と不安
「有沢さん。都子のこと、よろしくお願いします。じゃあ、都子またな」
洸太はそう言ってパッと片手を上げると、来た時とは別人のような笑顔を残し帰っていった。
これが今生の別れでもないのに。また明日になれば、注文の品を持ってここに来るというのに。
私の心は、何故か大きな穴がぽっかり開いてしまったかのような、そんな感覚に捕らわれていた。
洸太の姿はもうそこにはないのに、玄関のドアから目が離せない。
「都子さん」
薫さんの私を呼ぶ声にハッと身を震わせると、慌てて後ろを振り返る。
そこには大好きな笑顔を湛える薫さんが、まっすぐ私を見つめていた。
うん、大丈夫。薫さんのそばにいれば、私はずっと幸せでいられる。
洸太との関係が少しずつ変わってしまうことに寂しさは隠せないけれど、この心に開いた穴はきっと薫さんが埋めてくれるはず。
薫さんの存在を確かめたくてゆっくり手を伸ばすと、薫さんがその手を掴み引き寄せ私の身体を強く抱きしめた。
「都子さんの顔、泣きそうなんだけど? どうして?」
今の私、そんな顔してるんだ。
笑ってるつもりだったのに、私の身体は正直な気持ちを表してしまったみたい。
「そ、そんなことないです」
これが私の精一杯の強がり。
薫さんの胸にギュッと顔を埋め、自分からも薫さんの身体を強く抱きしめた。
「都子さん、今敬語使ったでしょ?」
「あ……」
「でも今回は許してあげる。だから意地張ってないで、僕に甘えて」
薫さんは、やっぱり優しすぎる。でも今は、その優しさが胸に染みた。
そして暫くのあいだ薫さんの腕の中で、彼のぬくもりを感じていた。