蜜恋ア・ラ・モード
本心と邪心
「都子先生。ニンニクと玉ねぎ、切り終えました。次は……。先生? 都子先生?」
「あっ……はい。えっと……。ごめんなさい、話し聞いてなくて。もう一度お願いできる?」
「どうしちゃったんです? もしかして有沢さんのせい? もう、先生も隅に置けないなぁ」
高浜さんがコノコノと身体をぶつけると、笑顔で私の顔を覗き込んだ。
彼女に笑顔につられるように私も笑顔を作ってみせたんだけど。
どうも上手くできていなかったみたい。
高浜さんは怪訝な顔を見せながら耳元に顔を移動させると、周りを気にしながら小声で呟いた。
「うん? 都子先生、有沢さんと何かあったんですか?」
「え? なんで?」
「だって先生の笑顔、元気ないんだもん」
さすがは高浜さんだ。相変わらず、人の心を読むのに長けている。
個人的な気持ちを講習中には出さないよう、気をつけていたはずなのに。そんな気持ちとは裏腹に、薫さんそして洸太のことを考えてしまっていた。
ここは私にとっての職場であって、私情を持ち込むのはご法度だというのに……。
どうもこの頃、自分の気持ちをコントロールできなくて本当に困ってしまう。
「そうでもないですよ。高浜さんに会うと元気になっちゃいます」
こんな言葉で彼女が納得してくれるとは思っていない。でも今ここで私の話をすることはできないし、まだ未だに自分の気持ちが何なのか計りかねていた。