蜜恋ア・ラ・モード
試食会が終わり高浜さんたちが帰っても、薫さんの言葉が頭から離れない。
洸太と一緒にいた女性は、本当に彼女じゃないのか?
薫さんが言うとおり決まったわけじゃないけれど、心の中のモヤモヤは晴れないまま。時間が経てば経つほど、胸の痛みは増していくばかり。
そんな気持ちのまま、ボーっと食器の片付けをしていたからだろう。手が滑り、持っていた茶碗を足元に落としてしまう。
「イタッ!!」
「都子さん、大丈夫?」
近くで一緒に片付けをしていた薫さんが、慌てて私の足元にしゃがみ込む。
「薫さん、大丈夫だから……」
「大丈夫じゃないだろう!! 破片で足が切れてるじゃないか」
普段声を荒らげることのない薫さんの初めて聞く声に、怒ってるんじゃないとわかっているのに身体が竦んでしまう。
「あ……ごめん。都子さんのあまりの鈍感さについ」
「ごめんなさい」
「僕こそ、ごめん。破片拾うから、ちょっと動かないで」
自分の不注意でしてしまったことなのに、申し訳なくていたたまれない。
でも言われたとおりその場でじっとしていると、薫さんの手が遠慮がちに、私の足に触れた。
「そんなに深い傷じゃないけど、痛いよね? ソファーまで歩ける?」
「うん。痛みもそんなにないし大丈夫」
ひょこひょこと歩きながらソファーまでたどり着くと、ゆっくり腰を下ろす。
気が緩んだのか、鈍い痛みを足元に感じ顔を歪めていると、キッチン横の棚から救急箱を取り出した薫さんが、はぁと大きなため息を吐きながら私の前に座り込んだ。