蜜恋ア・ラ・モード
出会うとき
引っ越しから三日後、私は部屋の片付けもそこそこに、料理教室で使う食器を探しに出かけていた。
隣には、何故か洸太が一緒。
「仕事は良かったの?」
「は? これも仕事のうちだろ。車の移動中に食材搬入の打ち合わせはちゃんとできるし、そのついでにここにいるだけだ」
なんて都合がいいことを言ってるんだか。
料理が好きで、その料理を盛り付ける皿や器も料理の一部と思っている私としては、ここでの時間も仕事の一部だけれど。
洸太は打ち合わせと称して、サボッてるだけじゃないの?
確かに、洸太の父親が経営する食材全般の卸や小売をしている店から料理教室の食材を仕入れることが決まっている。けれどおじさんとは何度も話をしているし、今更何を打ち合わせするの?
それも今日は「都子が運転な」なんて言って、自分は助手席で背もたれを倒してのんびりしている。
まあ運転は嫌いじゃない。それに今日行く焼き物の問屋街までの道のりは、ドライブに最適なコース。まだ紅葉には早いけれど、山の木々と空の色のコントラストが目を楽しませてくれていた。
それに今日は、もうひとつ楽しみがある。
前に一度陶器を下見に行った時に、ひとつの器に目をつけていた。
丸の錆絵・青釉・織部釉がバランスよく描かれている、優しい絵柄の盛鉢。それに料理が盛られてテーブルを彩る姿を思い描くだけで、ついつい顔がほころんでしまう。
きっと料理を一緒に楽しむ生徒さんたちも、目を奪われることだろう。
サラダや煮物を盛る? いや、食後の楽しみ、果物を盛るのもいいかもしれない。
早くあの盛皿に、もう一度会いたい──
そんなことを考えながら運転をしていると、洸太が私のこめかみ辺りを小突いた。