蜜恋ア・ラ・モード
「道がちゃんと整備されてないからね。足元が危なそうだし、手をしっかり握ってて」
「あ、うん……」
言うほど危なそうな気もしないけれど。
何となく薫さんの言葉に違和感を感じながらも、言われるがままに手を握る。
今日の薫さんは、いつも以上に私を近くに置きたがる。それは朝から始まり車の中でもそうだったし、今だってそう。
私の気持ちが、洸太に向きかけたのを感じている?
……なんて、私の思い過ごしだと思いたい。
たくさん想い出を作ろうと言っていたし、こんなゆっくり出かけるのは始めてだからかもしれないけれど。
繋がれている手に目線を下ろすと、ふたりの手はしっかり結ばれていて。
なのに心は?
よくわからない気持ちのまま薫さんに引っ張られるように歩くと、さっきまで小さく見えていた灯台がもう目の前にそびえ立っていた。
「思ったより大きいんだね」
「都子さん、灯台を見るのは始めて? 夜になるとあの窓から灯光を放って、海上を渡る船の安全をはかってるんだ」
そう言って薫さんが灯台の上の方を指さすと、私を上を見上げた。
雲ひとつない真っ青な空に、そびえ立つ真っ白な灯台。その色のコントラストに目を奪われる。
「こんなに近くで見るのは初めてかも。薫さん、灯台に詳しいの?」
「いや、そうでもない。ただ、海は好きかな。この雄大な景色を見ていると、辛いことも何もかも忘れられる」
「辛いことも何もかも……」
「ねえ都子さん、ひとつ教えてほしいことがあるんだ」
薫さんの心寂しい物言いに、今まで感じたことない胸騒ぎをおぼえる。