蜜恋ア・ラ・モード
それでもしばらく擦っていると薫さんの身体の震えは治まってきて、私を抱きしめている腕の力を緩めるとゆっくり身体を離した。
顔を上げると、少しだけ目を赤くした薫さんの顔がある。でもその顔からはさっきまでの悲しさは微塵も感じさせず、いつもと変わらない穏やかで優しい薫さんの笑顔があった。
「ねえ都子さん。最後にひとつだけお願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」
しばらく海のよく見えるベンチで語らい、久しぶりに作った弁当を食べる。
「やっぱり都子さんの料理は格別だね。美味いよ」
「ありがとう」
今だけは今までと変わらないふたりに戻って、恋人同士のような時間を過ごす。
もし私の気持ちが変わらななかったら、ずっとこうしていられたのに……。
考えてもどうにもならないことを考えてしまい、思わず箸を持つ手が止まってしまう。
「都子さん? 何しょげてるの? 何か余計なこと考えてる?」
「……なんでわかるの?」
「都子さんのことなら、なんでもわかるよ。言ったでしょ、今でも僕は都子さんのことが好きだって」
「ごめん……」
「なんて。こんなこと言ったら都子さんが困るだけだってわかってるのに、つい苛めたくなっちゃうんだよね。でもこれぐらいは許してもらわないと、割にあわないと思わない?」
薫さんは箸で唐揚げをひとつ摘むと、私の口の中にポンッと放り込む。
「ちゃんと食べておかないと、今晩戦えないよ」
戦う? 誰と?
唐揚げを口にしたままポカンとしていると、薫さんはクスクスと笑い出した。