蜜恋ア・ラ・モード

「真佳、今日は僕の大切な人を連れてきた。訳あって一緒になることはできなくなったけれど、君には紹介しておきたくて」

「真佳さん、初めまして。小浦都子と言います。薫さんにはとても良くしていただいたのに……」

「都子さん、大丈夫? いいよ、無理に喋らなくても」


大切な人───

私は薫さんに対してヒドいことをしていたというのに、それでも大切な人と言ってくれる。

薫さんがどれほど自分のことを思っていてくれていたのかを改めて知り、涙が込み上げてきてしまう。

本当ならば、ここへは良い報告をしに来たかったに違いない。

なのに私は、彼に辛い思いをさせてしまった。


「薫さん、真佳さん。本当にごめんなさい」

「また泣く。ほんと都さんは涙もろいね。いい、よく聞いて」


薫さんはそう言うと、私の肩をふわりと抱く。


「僕は君を好きになったこと、後悔してないよ。洸太くんのことを好きだと気づいてしまったことも、怒っていない。むしろ感謝してるくらいなんだ」

「か、感謝なんて……」

「僕は真佳のことが忘れられなくて、もう恋なんてできないと思っていた。でも都子さんが、僕にもう一度人を好きになる喜びを思い出させてくれた」

「私……そんな大層なこと何もしてない……」

「いいや。都子さんは僕に、多くの感情を教えてくれた。人を愛する気持ちや笑顔の大切さ。美味しいものを美味しいと素直に言えることや、その気持ちを仲間と分け合える楽しみ。そして、こんなことを言うとまた都子さんを困らせることになると思うけど、洸太くんへの嫉妬心。実はこれに一番手こずったよ」

「ごめんなさい」

「今日の都子さんは、謝ってばかりだな」


私の頭をクシャッと撫でると、もう一度真佳さんのお墓に向き直る。
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