蜜恋ア・ラ・モード
「そんな顔して運転してると、事故るぞ」
え? 何? 私ったら、どんな顔して運転してたの?
そりゃあ気持ちはウキウキしていたけれど、事故る顔ってどんな顔?
「ニコニコし過ぎて、目が無くなってた」
洸太がケラケラと笑いながらそう言うと起き上がり、大きく身体を伸ばした。
「洸太。私は今日、仕事で焼き物問屋に向かってるの。遊び半分で来てるなら、今すぐ車を降りて」
全く、いつまで経っても洸太は洸太。二十八の大人になっても、自由気ままな子供のまんま。
なのに仕事はできるから頭にくる。
人当たりがよく頭の機転もいいからか、お客さんからの信頼も厚い。
その上お店の来るおばちゃんたちに『イケメンな洸太』なんて呼ばれちゃってるもんだから。
『看板娘ならぬ、看板息子ってとこ』
なんて調子に乗っちゃってるし。いい気なもんだ。
「なんだよ都子~。そんな冷たいこと言うなよ~」
「そんな猫なで声出しても無駄。もう何年一緒にいると思ってんのよ。このペテン師!!」
「ペテン師ってなんだよ!!」
こうやって言い合いをしていたって、私たちにはいつものことで。でも大人になってしまったから、子供の時みたいに取っ組み合いになることはないけれど。
姉弟以上恋人未満のこの関係は、確かに居心地が良かった。
「ところで料理教室の生徒募集は、うまくいってんの?」
「うん。ホームページ開設と地域の生活情報誌に募集要項載せたら、結構反響あって。たぶん少人数制や個別でのカリキュラムっていうのが受けたんだと思う。もう少しで定員に達しそうだよ」
「そっか。で応募してきてるのは女ばっか?」
「そうだけど。何? もしかして洸太、生徒さんの中から彼女見つけようなんて思ってるんじゃないでしょうね!!」
「ち、ちげーよ!!」
顔を真っ赤にして反論する洸太の気持ちなんて、この時の私はこれっぽっちも知る由もなくて……。