蜜恋ア・ラ・モード
自分で言うのも何だけど、思っていたよりいい顔してるじゃない。
料理教室初日から目の下にクマを作ってるなんて、洒落にならないからね。
少し冷たくなり始めた水でバシャバシャと顔を洗うと、タオルで手早く水滴を拭き取った。
メイクは、どちらかと言うと苦手。
できればメイクしたくないんだけど……。女も28にもなると、そうも言ってられない。
「ササッと、やっちゃいますか!!」
勢い良く化粧水を顔になじませると、お決まりの簡単メイクを施す。
最後に薄く口紅を引くと、もう一度鏡の前に姿勢よく立った。
教室スタートの日で気合が入っていたのか、いつもよりはきちんとしたメイクに仕上がっていて、鏡の中の自分に苦笑する。
そして胸のあたりまで伸びた髪を櫛で解かし後ろでひとつにまとめると、お気に入りのシュシュで軽く結んだ。
「今度、前髪切ろうかな」
同じく長く伸びた前髪を少しの束にして左右顔の横に垂らすと、指にクルクルと巻きつけた。
昔から代わり映えしない髪型。長ければしばればいいと、女性らしさより楽さを選んで伸ばしている髪だけど。
たまには冒険してみるのもいいかもしれない。
さすがにショートにする勇気はないけれど……。
指に巻きつけていた髪をスルスルッと解くと、洗面室をあとにした。
「着替えはまだいいか」
午前中は洸太が来るだけ。だったら今着てるスエットのままでいいとキッチンまで移動すると、エスプレッソマシンの電源を入れる。
時計を見ると、あと十分ほどで午前九時。洸太が今日の材料を持って、ここに来る時間だ。
「洸太の分も用意しとくか」
食器棚からエスプレッソ用の小さなカップをふたつ取り出すと、沸騰したお湯を入れカップを温め始めた。