蜜恋ア・ラ・モード

美味しいエスプレッソを飲むためには、そんなちょっとした手間も惜しまない。

カップが十分温まったらお湯は捨て、エスプレッソをカップに注ぎ始める。並々に注がないように注意しながらカップ側面を辿らせ、きめ細やかで綺麗なクレマを作っていく。


「うん、上出来」


エスプレッソが出来上がったカップをテーブルに移し、まずは香りを楽しんでいると、玄関のチャイムがリビングに響く。


「洸太? 開いてるよ」


椅子に座ったまま大きな声でそう叫ぶと、玄関が開く音が聞こえドタドタと廊下を歩く足音が近づいてきた。

相変わらずうるさい足音……。でも洸太だからしょうがない。

フッと鼻で笑うと、少し怒り顔の洸太が顔を見せた。


「おい都子!! なんで鍵開いてるんだよ」

「何よ、いきなり」

「女のひとり暮らしなんだぞ。俺だから良かったもんの、知らない奴だったらどうするつもりだったんだ!!」

「えぇ~。洸太しかこんな時間に来ないでしょ?」

「お前なぁ~。もっと注意しろって言ってんだよ。わかったか?」

「はいはい、わかりました」

「気をつけろよ」


洸太のくせに、偉そう……。なんて悪態は、心のなかだけに留めておいて。

しかめっ面を笑顔に戻すと、椅子に座るように洸太を促す。目の前に出来上がったばかりのエスプレッソをスッと出すと、洸太の顔もふわっと優しいものに変わった。


「俺の?」

「そう。洸太のことだから、約束の時間通りに来ると思ったからね。いらなかった?」

「いるに決まってんだろ。さすが都子だなぁ」


嬉しそうにそう言うと、ブラックのまま美味しそうに飲み始めた。

そんな洸太見ながら、私は砂糖を小さじ二杯入れる。

一般的なドリップコーヒーよりも苦みが強いエスプレッソを飲む時は、本場イタリアに習っていつもこの飲み方だ。
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