蜜恋ア・ラ・モード
「都子って、コーヒー飲む時、結構砂糖入れるよな」
「エスプレッソだけはね。ブラックで飲むのがカッコいいなんて思ってるのは、日本人だけみたいだよ」
実際イタリアでは、砂糖は小さじでたっぷり1杯~2杯入れて、かき混ぜずそのまま飲む人も多いらしい。飲み終わった時にカップの底にはクレマが付着するとともに大量の砂糖が残って、それをスプーンですくって食べるのが実は本国イタリアでは当たり前の行為なんだと、何かの雑誌で読んだ覚えがあった。
さすがに私は、かき混ぜずに飲むことはしないけれど。
香りを楽しみながらカップに口をつける。そっと目を閉じるとエスプレッソの苦味と甘味が交じり合って、口の中いっぱいに広がった。
ふと視線を感じて目を開けると、洸太の優しい目とぶつかった。
「な、何?」
「うん? こんな時間の過ごし方、いいなと思ってさ」
そう言う洸太の顔が、いつになく男っぽくて……。
瞬間、顔に熱を感じてしまった私はサッと顔をそむけると、違う話題を振った。
「あっそうだ。今日の食材、見せてもらってもいい?」
「なんだよ急に。別にいいけどさ」
いきなりどうしたと、ちょっと腑に落ちない顔を見せた洸太が、テーブルの横に置いていた箱の蓋を開けた。
中には新鮮そうな食材が、いっぱい詰まっている。
一番手前にあったレンコンを手にすると、それを顔に近づけた。
「土のいい匂いがするね」
レンコンはほぼ通年出荷されているけれど、旬は収穫が始まる9月~10月の秋から正月のおせち料理で最も需要が多い冬。
ちょうど今が旬で、秋口は柔らかいレンコンが楽しめる。