蜜恋ア・ラ・モード
今日はこのレンコンに、ゴボウ、ニンジン、たけのこ、などの野菜を使って“筑前煮”をメインに、あとはきのこの炊き込みご飯に豆腐とわかめのシンプルな味噌汁というメニューに決めた。
料理初心者の生徒さんが同じペースで進んでいけるように。包丁の持ち方、ごはんの炊き方からはじめていこうと。
名前や年齢はわかっていても、顔を合わせるのは今日が初めて。きっと緊張で身体が固くなってしまうであろう生徒の皆さんに、楽しみながら料理の基本を身につけてもらう。
まずは食に関心を持って、楽しむこと───
難しいことは抜きにして、とにかく日々の食を楽しむことをモットーに。
笑顔と笑い声が絶えない、明るい教室になるように心がけていこう。
今日から料理を教えることが仕事だというのに、楽しみなことが多すぎて胸の高鳴りを抑えることが出来ない。
ついつい顔がほころんでしまう。
やっと夢が叶うんだもん。しょうがないよね。
自分で自分にそう言い聞かせると、可笑しくてクスッと笑いがこみ上げた。
「その様子じゃ、大丈夫そうだな」
不意に頭上から落とされた言葉に顔を上げると、洸太がリビングの入り口にもたれかかりながら私を見ていた。
「な、何?」
「いや、なんでもない。こっちのことだから、お前は気にするな。じゃ、頑張れよ」
そう言ってクルッと向きを変えると、軽く手を振りながらリビングから出て行った。
「ちょ、ちょっと洸太!! ……もう、何なのよ」
何が大丈夫そうだって言うの? 気にするなって言われると、余計気になるじゃない!!
でも洸太は、もう帰ってしまったわけで……。
洸太の言葉に意味がわからず、腑に落ちない気持ちに溜息をひとつ。
でもいつまでも気にしてばかりはいられない。
ふぅ~と静かに息を吐くと気持ちも一新、教室の準備に取り掛かった。