蜜恋ア・ラ・モード
私がキッチンの方へ移動すると、四人はそれぞれに自己紹介を始めた。その姿を眺めながら、ギャルソンエプロンを付け手を洗う。そして、材料が入ったステンレスのバットをそれぞれの場所に置くと、四人に向き直る。
「では皆さん、はじめましょうか。エプロンを付けてから、こちらに集合して下さいね」
それだけ伝えるとクルッと向きを変え、机へと向かった。
少し散らかった机の上から、今日の献立やそのレシピなどをまとめた用紙とクリヤーブックを人数分持つと急いでキッチンに戻る。
すると女性三人は可愛らしいエプロンを付けているのに、何故か有沢さんだけが何も付けないで困った顔をしていた。
もしかして……。
私は黙ってキッチンを出ると、足早に寝室へと向かった。部屋に入り一番手前のクローゼットの棚を引き出すと、今自分が付けているものと色違いの紺色のギャルソンエプロンを取り出す。
可愛いキッチン用品や雑貨を取り扱っているセレクトショップで最近見つけた、今治タオルを使ったギャルソンエプロン。よく濡れる前の部分は前掛けとしてタオル生地を使用していて、このパイル部分は取り外して洗濯もOKのすぐれものだ。
使い勝手が良さそうなのとシンプルでカッコいい所が気に入って、色違いで買っておいた。
サイズも大きめだし、有沢さんにちょうどいい。
それを手にし急いでキッチンに戻ると、そっと有沢さんのそばに近寄った。
「これ、使って下さい」
「え?」
「エプロン、忘れたんですよね?」
背の高い有沢さんの横で少しだけ背伸びをして耳元に小声で呟くと、彼が身を屈め顔を近づけた。
「すみません。男のひとり暮らしなもので、エプロンのことをスッカリ忘れてました」
香水だろうか。屈んだ彼から、柑橘系のソフトな香りがほのかに漂ってきた。
安心感と落ち着きを感じさせてくれる香りで料理の邪魔にならない程度の付け具合に、彼の大人なセンスが感じられた。
「こちらこそ気づかなくて。じゃあこれ、パパッと付けちゃって下さいね」
そう言ってエプロンを手渡すと、なぜだか早くなっている胸の鼓動を不思議に思いながら、四人の前に立った。