蜜恋ア・ラ・モード
* * *
「都子、いつまで寝てるの? 今日は忙しいんでしょ。早く起きなさいっ!!」
相変わらず母の声は、朝から大きい。でもこの声を聞くのも今日が最後だと思うと、感慨深いものがある。
まだ眠い身体を起こし背伸びをする。そんな私の姿を見ながら、母が勢い良くカーテンを開けた。
「雲ひとつない秋晴れよ、都子。良かったわね。もう朝ごはんできてるから、さっさと支度してきなさいよ」
いつもと同じ言葉を残し、ヒラヒラッと手を振って母が部屋を出て行った。
寝る前にニュースで見た天気予報では、今日の天気は曇り時々雨。最近の天気予報は当たらないことが多いけれど、今日はそれが吉と出た。
私、小浦都子(こうら みやこ)は、生まれてから二十八年間暮らしたこの家を出て、今日から一人暮らしを始める。
もうあと二時間もしたら、引越し業者がやってくる手筈になっていた。
まだ余裕があると身体をほぐしながらゆっくり立ち上がると、用意しておきたTシャツを着てジーパン穿き、パーカーを羽織る。
ドアの横にある姿見の前に立つと、可愛げも素っ気もない格好に苦笑が漏れた。
「引っ越しするんだし、楽な格好が一番だよね」
女も二十八にもなると、言い訳じみた言葉が自然と出てきてしまう。
誰が聞いてるわけでもないのに……。
まずは腹ごしらえでもするかとドアを開けると、大好きな味噌汁の匂いが漂ってきた。
「私が取っておいた出汁を使ってくれてる」
うんっとひとつ頷くと、足早にダイニングへと向かった。