蜜恋ア・ラ・モード

その声に部屋の中にいた全員が、一斉に顔を上げ一点を見つめる。


「こ、洸太!!」


なんで洸太がここにいるの!?

それもドアの前で腕を組み、鬼の形相で私のことを睨んでいる。そして一度だけチラッと有沢さんの顔を見ると、私に向かって歩き出した。


「ちょっと、こっちこい」

「は、はあ!?」


強い力で腕を掴まれて。振り解こうとしても、びくともしない。

今はスクール中、それも包丁を扱っている最中なのに……。

ほら女性陣がみんな、ぽかんと口を開けているじゃない。

そうだよね。いきなり知らない男が突入してきたんだ。驚くに決まっている。

かたや有沢さんを見れば、困ったように顔をしかめていた。

お金を払って料理を教わりに来てるのに、申し訳ない気持ちでいっぱい。

この状況に腹が立ち洸太のことをキッと睨みつけても、洸太の顔色はピクリとも変わらない。ずっと怒った顔のまま。

なんで私が、洸太に怒られないといけないわけ?

なんて思っている間に腕を取られグイッと引っ張られると、そのまま引きずるように部屋から連れだされてしまった。

しかもまだ、黙ったまま。私を一番奥の部屋まで連れて行くと、やっと腕を離してくれた。


「ちょっと洸太!! 一体どういうつもり?」


強く掴まれていたからか、少しだけ痛む腕を擦りながら洸太に詰め寄った。


「どういうつもりも、こういうつもりもないだろ。誰だよ、あの男?」

「あの男?」


この場合の“あの男”って、やっぱり有沢さんしかいないよね?

なんでそこまで怒るほど、洸太が有沢さんを気にする必要があるんだろう。


「さっき、くっついてた男!!」

「くっついてたなんて、それは洸太の勘違いだよ」

「勘違い?」

「そう。彼、有沢さんは初心者コースの生徒さん」

「でもその生徒とお前が、なんでくっついてんだよ?」


未だ怒りが収まってない洸太。

はぁ……。なんだか洸太を見てると、初日から前途多難な予感がする。

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