蜜恋ア・ラ・モード
気づくとき
「レッスン初日からバタバタさせてしまってごめんなさい。今日はちょっと時間を延長しようと思いますが、皆さん大丈夫ですか?」
レッスン費を頂いている以上時間延長なんて、本来ならあってはならないこと。でもこのままだと、レッスン内容が薄くなってしまう。それに試食の時間もギリギリになってしまうかもしれない。
申し訳ない気持ちで提案させてもらったのだけど。
「私は大丈夫ですよ、都子先生」
高浜さんの一言に、女性陣はうんうん顔を見合わせて笑っている。
その横で有沢さんも大きく頷いた。
「僕にも原因はありますし、もちろん大丈夫です。それより都子先生は大丈夫なんですか?」
「え?」
逆にそう聞かれてしまい、言葉に詰まってしまう。
確かに有沢さんも、原因のひとつではあるけれど。真面目な顔で見つめられると、目が離せなくなってしまって。
「ゴホゴホッ!! あ~喉が痛い」
洸太……。今の咳、すっごくわざとらしいですけど。
私が有沢さんと絡むと、すぐに反応するのはやめてもらいたい。
一番の原因は洸太!! あんただっていうのに!!
ギロッと睨みを効かせて洸太を見れば、何事もなかったかのように素知らぬ顔。
高浜さんたちも洸太の様子に気づいて、クスクス笑ってるじゃない!!
もう、恥ずかしいったらありゃしない。
でもひとりだけ怒っているのもバカバカしくなってきて、洸太のことは放っておいてキッチンに目を戻す。
「私は大丈夫なので。じゃあ続き始めましょうか」
キッチン台に目線を落とすと私の用意しておいたレシピの順序通り、一口大に切ったレンコンとゴボウが水にさらしてアク抜きがされていた。
「さすが」と声をかけると高浜さんをはじめ、柳川さんと梅本さんも嬉しそうに微笑んだ。
そこまで歳の差はないけれど、その顔がなんとも愛くるしくて心がほっこりする。