蜜恋ア・ラ・モード
煮物といえば砂糖と醤油を一緒に入れて煮込みがちだけれど、実は甘い味は染み込みにくい。逆に醤油などの味は染み込みやすいため、同時に入れると甘い味が染み込まず負けてしまう。
だからまずは甘い調味料で煮込み、仕上げに醤油を入れる感じでも、十分味がしみ込むと言うわけだ。
そしてなんといっても、煮物は火を止めてから冷ましてる間に味が中の方まで浸透する。
食べる前日に作って一晩冷ましておく。そして翌日温めなおして食べるのが、実は一番美味しいのかもしれない。
五分待つ間にそんなことを話すと次に醤油を加え落し蓋をし、全体に味をなじませるように時々かき混ぜながら、煮汁が三分の一になるまで煮詰める。
「じゃあその間に、きのこの炊き込みご飯とネギと豆腐の味噌汁を作りましょう」
今日の炊き込みご飯は土鍋で作る。三合分の米は研いで土鍋に入れ、だし汁と調味料を入れて三十分置いておいた。
「ではこの上に細かくほぐしたシメジと舞茸、薄切りにした椎茸。それに油揚げと千切りにした人参を上に乗せてフタをして下さい」
四人にそんな指示をしていると、部屋にけたたましい音が鳴り響く。
「っと悪い。俺のだな」
洸太が少しだけバツの悪そうな顔をし、ジーパンからスマートフォンを取り出す。
私が怒った顔をし黙ったまま指で『廊下に出て!!』と指示すると、洸太は慌てて廊下に出ていった。
「洸太、最低」
私の料理教室初日を台無しにしてくれて、まったく……。
誰にも聞こえてないと思ってこぼした愚痴は、隣にいた有沢さんには聞こえてしまっていて。
「台無しじゃないですよ、都子先生。僕は結構面白い」
「面白い?」
「はい。今後が楽しみです」
そういう顔はただ笑っているだけではなくて、少し何かを企んでいるみたいに見えて。
私は益々、有沢さんのことが気になってしまった。