蜜恋ア・ラ・モード
電話を終えて戻ってきた洸太は、頭を掻きながら面白くなさそうな顔をしていた。
そして私のそばまでトボトボとやってくると、への字に曲げている口を開いた。
「親父に、『早く戻ってこい!!』って言われた」
「仕事中だもん、当たり前だよね。早く帰れば?」
「今日の都子は、いつにも増して言い方がキツくないか?」
そう言って顔を寄せると耳元で、「アイツがいるせいか?」と小さく囁く。そして洸太の目は、有沢さんを追っていた。
「バカ言ってないで、さっさと帰りなさいよ。またおじさんから電話かかってくるよ」
そばにある洸太の背中をバシッと叩き、身体を廊下に向ける。
「都子、相変わらず馬鹿力。って、マジ早く帰んねーと親父にまでぶん殴られるな」
「おじさんにヨロシク伝えておいてね」
「あぁ、了解」
高浜さんたちに「また来て下さいね~、洸太さん」なんて社交辞令並の言葉を真に受けて、洸太は嬉しそうに帰っていった。
でも洸太、有沢さんのことは完全に無視していったよね。
一体どういうつもりなんだか。
まぁ満面の笑みで洸太を見送った、有沢さんも有沢さんなんだけど……。
「本当にごめんなさいね。昔から、何かと問題起こす人で」
「でも裏表がなさそうで、いい人ですよね」
「そ、そうかなぁ……」
高浜さんの言葉に、洸太がいなくなったソファーを見つめる。
そう。洸太はいつだって気持ちのままに行動する。そこは羨ましいくらい、洸太のいいところだと思うんだけど。
それが私のこととなると、わかりやすくてでも伝わりにくい態度をするもんだから困ってしまう。
そして私自身も、洸太に曖昧な態度しかできないでいた。
洸太にハッキリと『好きだ』って言われたら、私の気持ちは決まるんだろうか。
今度はだれにでもわかるくらいに大きくため息をつきキッチンに目を戻すと、こちらを見ていた有沢さんと目線がぶつかった。その目は真剣で、何かを語っていて。
「負けられないですね」
そう一言こぼすと柔らかく微笑み、有沢さんは作業に戻った。
負けられない?
その意味がわからない私は、作業をする有沢さんをだた見つめていた。