蜜恋ア・ラ・モード
ダイニングに到着すると、テーブルの上にはところ狭しと料理が並べられていた。
鮭の塩焼きにアジの開き、だし巻き卵に筑前煮。ほうれん草の胡麻和え、きんぴらごぼう。
どれもこれも私の大好物で美味しそうだけど、どう見ても量が多い。父と母そして私の三人家族では、到底食べきれる量じゃない。いくら私の門出の日だと言っても、これは作り過ぎだ。
呆気にとられテーブルの縁で立ち尽くしていると、母のクスッと笑う声に振り返った。
「すごい量で驚いた? 味は都子には負けるけど、あなたの好きなものばかり作っておいたから」
「うん……ありがとう。でも私はお母さんの味が、世界で一番好きよ」
母の気持ちに、朝からしんみりとした空気になってしまう。
引っ越すと言ったって、車を走らせれば十五分と掛からない隣町。いつだって顔を出せる距離だというのに、一人暮らしをすることは正直迷った。
『都子がこの家をでるときは、お嫁に行くときね』なんて、母が言っていたから。
でも私の幼い頃からの夢。
料理の楽しさ、奥の深さを一人でも多くの人に教えたい───
その夢を実現させるためには、今のままではいけない。両親には申し訳ないけれど、今は結婚よりも夢を実現させることの方を優先したい。
その思いは日に日に膨れ上がっていき、恋にも遊びにも脇目もふらず貯めたお金で中古の一軒家を購入すると、事後報告でそのことを両親に伝えた。