蜜恋ア・ラ・モード
* * *
あれは私たちがまだ大学三年だった頃。
学園祭の買い出しへ出かけていた私のところに、高校の時からの同級生で洸太の悪友、村野尊(むらのたける)が駆け寄ってきた。
「なんだ小浦、洸太と一緒じゃなかったのか?」
「うん、洸太教室にいなかった?」
「知らん。まだ教室行ってないからさ。その荷物貸せよ」
村野くんは私が抱えていた大きな袋をひょいと持ち上げると、スタスタと前を歩き出した。
「ありがとう。さすがラグビー部。伊達に体鍛えてないね」
「当たり前だろ。まぁ男なら誰でも、お前よりは力あるんじゃね?」
「だね」
なんて最初は軽く話をしてたんだけど。
10メートルくらい進んだところで、村野くんがいきなり足を止め振り返った。
「ど、どうしたの?」
村野くんの顔があまりにも真剣で、少し怖いくらいで。私はその場に、足の裏がくっついてしまったかのように動けなくなってしまった。
「なぁ小浦。お前って好きな奴いるの?」
「はぁ? いきなり何なのよ」
「冗談で聞いてるんじゃないんだよ。ちゃんと答えろよ」
村野くんの顔を見れば、冗談じゃないことくらいわかっていた。でもなんで今ここで、そんなことを聞かれなきゃいけないのか。
どう答えたらいいのかわからなくて、村野くんから目をそらした。
「洸太さぁ」
目をそらした先に学園祭の準備をしている教室が見えて、村野くんが洸太の名前を出すと同時に洸太本人の姿を見つけた。
タイミングの悪さに、今度は俯いた。
「あいつ、小学生の頃からの恋心を今でも大切にしてるんだってさ。健気なやつだよなぁ。もう十四年? 振り向いてくれるかわからない女を、ずっと想ってるんだぜ? この意味わかるよな?」
好きな人がいるのか聞かれた時点で、何を言われるのか薄々感じていた。
だから困って目をそらしたんだけど……。
もう一度村野くんの顔を見れば、今回は見逃してもらえなさそうな目をしていた。