蜜恋ア・ラ・モード
第二章
抑えられない気持ち
念願だった料理教室をスタートさせてから一ヶ月半。
身体も教え方にも大分慣れてきて、特に大きな問題もなく順調にいっている。
生徒さんたちにも恵まれ、和気あいあいとした雰囲気の中、思い描いていたような笑顔が絶えない教室になっている……と思う。
その証拠に生徒さんからも、『アットホームな雰囲気がいい』とか『先生の教え方と笑顔が素敵』と評判も上々だ。ちょっと照れくさいけれど。
それに生徒さんからの口コミで、新規募集の問い合わせも毎日のようにあって嬉しい限りだ。
そう、嬉しい事ばかり。とても嬉しいことなのにこのところの私ときたら、あることばかりが気になってしまい集中力に欠けてしまっていた。
料理教室初日、洸太が突然現れたことで思っていなかった騒動が起こった初心者Aコース。
今日が四回目のレッスンの日なのだけど……。
有沢さんの顔を見るのが、少しつらくなっていた。
有沢さんの人柄や時折見せる笑顔に、どんどん惹かれている自分がいて。
彼女がいる有沢さんのことを好きになってもこの想いは報われないとわかっているのに、気持ちはもう止められなくなっていた。
はぁ……。
こんな気持ちのまま、今日も四時間近く顔を合わせなくちゃいけないなんて、拷問の以外の何ものでもない。
憂鬱な気持ちは身体まで重くしてしまっていて、時計を見ればもう九時半を回っていた。
「そろそろ準備しなきゃね」
ソファーに横たえていた身体を起こし立ち上がると、定番のギャルソンエプロンを付けた。少しだけ気が引き締まったような気もするけれど。
教室初日にエプロンを忘れた有沢さんにあげたものと色違いのエプロンを身につけているだけで、頬が緩んでしまうなんて……。
思っている以上に、恋の病は重症かもしれない。