蜜恋ア・ラ・モード
『なんでそんな大事なことを、すぐに言わなかったんだ!!』
なんて言われることを覚悟していたのに、返ってきた言葉はあまりのも以外なもので。
『そうか、いろいろ大変だっただろう。何か手伝ってほしいことがあったら、遠慮なく言いなさい』
と、いつもと変わらない口調で父に言われ。
『私も都子のお料理教室に通おうかしら』
母もこれまたいつもの調子で言うもんだから、こっちは拍子抜けしてしまった。
「おっ今朝は豪勢だなぁ。何かあるのか?」
「お父さん、何言ってるんですか。今日は都子の引っ越しの日ですよ」
「そうか、今日だったか」
でも今ここでこうしてテーブルにつき父と母を見ていると、ふたりのちょっとした変化に気づいてしまう。
私に余計な心配をさせないように、いつもと変わらない父と母を装っているのだということを……。
箸を持った手が、動いてくれない。
まだひとくちも食べ物を口にしていないのに、胸がいっぱいになってしまっていた。
「都子、どうした?」
父の問いかけに今口を開けば、弱音を吐いてしまいそうだ。
もう少しだけ、お父さんとお母さんのそばにいたいって───
手をグッと力いっぱい握りしめる。
「都子、最後の晩餐でもないんだから、もっと肩の力抜いて」
母が私の手をそっと握りしめた。たったそれだけで、身体の力が抜けていく。
やっぱり母は偉大だ。到底、敵いっこない。
お父さん、お母さん。私頑張るから、応援しててね……。
心の中でそう語りかけると、俯いていた顔を上げた。