蜜恋ア・ラ・モード
何年も恋をしていないと、恋愛に対する免疫力がこんなにも低下してしまうものなのか。
とは言っても、私には大した恋愛遍歴がないのだけれど……。
最後に付き合ったのは大学四年生のとき。それも長くは続かなくて、半年で終りを迎えてしまった。
あの時は、洸太や村野くん、藍子に一晩中慰めてもらったっけ。
『遊び人で有名な男と、安易な気持ちで付き合うからだ!!』
『好きって言われたら、だれにでもホイホイついていくのか? お前はゴキブリと一緒だな』
なんて。
あれ? よく思い出してみると慰めてもらったんじゃなくて、私のアホさ加減を罵倒されてただけじゃない?
でもあの時の私には、そんなことを言われてもそばに居て一緒に泣いて笑ってくれる、彼らがいるのが嬉しかったんだと思う。
「最近は、よく昔のことを思い出すなぁ」
クスッと笑みを漏らしキッチンで手を洗っていると、玄関のチャイムが鳴った。
「洸太だよね」
以前注意されてから、ひとりの時には必ず鍵を掛けている。また怒られるのはごめんだからね。
パタパタとスリッパの音をさせながら玄関に向かうと、玄関のドアが見えたところで足が止まった。
洸太じゃない? ガラスブロックに映る姿が、明らかに洸太のものと違う。男性には違いないんだけれど、背格好が洸太とは別人で。
でも私は、その背格好に見覚えがあって。
「あ、有沢さん?」
伺うようにその名を呼ぶと、ドアの向こう側から『はい、有沢です。おはようございます』と声が返ってきた。
どうしてこんな時間に有沢さんが来るの?
少し驚きながらも、やっぱり嬉しい私がいて。「今開けますね」とドアの取手を握る手が、緊張から震えていた。