蜜恋ア・ラ・モード
「有沢さん……あの、全然迷惑じゃないです。良かったら、中に入りませんか?」
「いいんですか?」
「はい、どうぞ」
手招きして、有沢さんを玄関の中へと迎え入れる。
「良かったら、その重そうな荷物そこにおいて下さいね」
有沢さんが抱えている木箱を指さすと、「あぁ、これね」と言って玄関脇の棚の上に置いた。中には新鮮そうな野菜がいっぱい入っている。
「僕が料理教室に通い始めたことを知った母親が送ってきたんです。先生に使ってもらえって」
「そうなんですか?」
箱の一番手前にあったキュウリを一本手にする。全体につやとはりがあり表面のイボもとがっていて、新鮮そのもの。
他にも、人参に里芋。レタスにチンゲンサイ、ブロッコリーも入っていて、どれもみんな色が鮮やかで美味しそうだ。
「両親が岐阜に住んでるんですけど、こじんまりと家庭菜園してて。料理教室の食材は洸太くんが持ってくると思いますが、都子先生さえ良ければ、これ食べてもらえませんか?」
「えぇ? 趣味の域で、こんなに美味しそうな野菜作っちゃうんですか? スゴいですよ」
「変わり者の夫婦なんですよ」
少し照れくさそうに頭を掻く姿が、普段より幼く見えて。そんな姿にも、胸がキュンとしてしまう。
「都子先生、顔が赤いみたいですけど大丈夫ですか?」
か、顔が赤いー!? 有沢さんの姿を見て顔を赤らめるなんて、私の気持ちなんてバレバレじゃない!!
そんなの恥ずかしすぎる!!
有沢さんに顔が見えないように横を向いて「大丈夫です」と言おうとしたのに、それを有沢さんの大きな手が阻止する。
その手は今、私の額に当てられていて。
そんなことをされると思っていなかった私は思考が停止してしまって、身動きひとつできないでいた。