蜜恋ア・ラ・モード
「熱はないみたいだけど……」
は、はい。熱はありませんよ。
だって私の顔が赤いのは……。有沢さん、あなたのせいなんだから。
っと言ってしまえれば、どんなにか楽なんだろう。
でも、自分の気持ちを伝えるわけにはいかない。
伝えたところでこの恋が成就する可能性は0%だし、私みたいに女らしくない女は有沢さんには似合わない。
できることと言ったら料理くらいだしね。
「はぁ……」
目の前に有沢さんがいることも忘れて、派手にため息をつく。
「都子先生?」
「えっ!?」
グイッと顔を覗きこまれ、有沢さんの顔が数センチまで近づいた。それは少し動けば、唇がぶつかってしまいそうな距離で。
視線を彷徨わせていると、フッと笑い声とともに有沢さんの身体が少し離れた。
「先生は、やっぱり可愛い人ですね」
スッと伸びてきた手が、私の頭の上にストンと落とされる。いわゆる世で言う、頭ポンポンってやつだ。
こんなことされたの何年ぶりだろう。子供の頃に父親にされて以来だろうか。
なぜだか気持ちが落ち着いてくるから、不思議な気分だ。
それにしても『可愛い人』って……。
どういう意味で言ってるのかわからないけれど、仮にも彼女がいる人が女性に言う言葉ではないと思う。
有沢さん、自分の立場、ちゃんとわかってるのかしら。
頭から伝わってくるホワンッとした温もりを断ち切るように有沢さんから身体を離すと、何もなかったかのように棚の上に置かれた木箱に手を掛けた。